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名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)3908号 判決 1992年12月16日

名古屋市千種区希望ケ丘一丁目八番二二号

原告

丹羽孝人

右訴訟代理人弁護士

大場正成

鈴木修

右輔佐人弁理士

橋本正男

愛知県春日井市下条町一丁目一一番地の一四

被告

エヌ・ディ・シー株式会社

右代表者代表取締役

永井利和

右訴訟代理人弁護士

野田弘明

右輔佐人弁理士

西山聞一

主文

一  被告は、別紙第一物件目録記載の物件及び同第二物件目録記載の物件を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。

二  被告は、原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する平成四年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

五  この判決は第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  申立て

一  主文第一項と同旨。

二  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年一月一〇日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  仮執行の宣言。

第二  事案の概要

本件は、特許権侵害を理由に、侵害物件の製造販売等の差止め並びに損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件特許権

(一) 原告は次の特許権を有している。

発明の名称 複合シートによるフラッシュパネル用芯材とその製造方法

出願日 昭和五二年一二月二九日

公告日 昭和五六年七月二〇日

登録番号 第一〇八八三九三号

(二) 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第一項の記載(以下、この記載に係る特許権を「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)は、別紙「特許公報」(甲二。以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。

(三) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。

A 概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって、

B 前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され、

C かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されていること

D を特徴とする複合シートによるフラッシュパネル用芯材。

2  被告の侵害行為

(一) 被告の行為

被告は、別紙第一物件目録記載のフラッシュパネル用芯材(以下「イ号物件」という。)を「78E」の品名で、また、同第二物件目録記載(ただし、lがLの概ね1/2に当たることについては争いがある。)のフラッシュパネル用芯材(以下「ロ号物件」という。)を「116E」の品名で製造販売している。なお、イ号物件とロ号物件とは、コアの一辺の長さが異なるだけで、その余の形状は基本的に共通である(以下、両者を合わせて「被告製品」という。)。

(二) 被告製品の構成

(1) 被告製品は、いずれもフラッシュパネル用芯材である。

被告製品の多数の複合シート12は、断面波形の内板14と、この内板14の両側面に接着された二枚の平坦な外板16からなる三層構造のシートであり、これは当然本件発明の複合シートに該当する。この複合シート12がそれぞれ次に述べるとおり隣接する複合シート12に接着され、セルCを構成している。したがって、被告製品は、多数の複合シートを並列かつ相互に接着させ、セル構造を形成したものである。

(2) 各複合シート12は、いずれも山形に屈曲されて山部18が形成され、この山部18は等角等辺である。したがって、被告製品は、概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の複数の複合シートからなるものである。

(3) 被告製品では、隣接する複合シートの山部18の頂点が互いにずれて接着されている。複合シート12の各辺は、一部が隣接の複合シートに接着され、残部が自由担持状態にある。

複合シート12の各辺の長さは、イ号物件では約七八ミリメートルであるが、そのうちの二分の一である約三九ミリメートルの部分が隣接する複合シートに接着され、残りの二分の一である約三九ミリメートルが自由担持状態である。

また、ロ号物件でも、各複合シート12は同様に隣接の複合シートと接着されており、各辺の長さは約一一六ミリメートルで、接着部分が四八ミリメートル、その余の部分が自由担持状態である点でイ号物件とは異なるが、その余の構成はイ号物件と同一である。

(4) 被告製品は、複合シートによるフラッシュパネル用芯材である。

3  被告の売上高

被告による昭和五六年七月二〇日から平成四年三月三一日までの間の被告製品の売上高は、二億円を下らない。

二  争点及びこれに関する主張

1  被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。

(一) 原告

(1) 構成要件A充足性について

被告製品は、いずれもフラッシュパネル用芯材である。そして、被告製品の複合シート12は本件発明の複合シートに当たり、各複合シート12は概ね等角等辺の山形に屈曲させたもので、同一形状であり、しかも、この複合シート12が多数並列かつ相互に接着してセル構造を形成している。

したがって、被告製品は、いずれも構成要件Aを充足する。

(2) 構成要件B充足性について

被告製品では、各複合シートは隣接の複合シートとはずらして接着されている。イ号物件では、複合シート12の各辺は丁度辺の1/2の部分が接着されている。また、ロ号物件では、複合シート12の各辺の全長一一六ミリメートルのうち接着部分が四八ミリメートルであり、辺の全長の丁度1/2ではないが、全長の約四二パーセントに当たるので、接着部分が概ね1/2であるというを妨げない。

なお、本件発明のフラッシュパネル用芯材においては、上下を他のシートに挟まれないシートが必然的に存在することは技術上当然のことで、したがって、上ないし下に他のシートが存在しないため全ての辺のその略1/2が自由担持状態とはならないシートがあることもまた技術上当然のことであり、被告製品がこのようなシートを有するからといって、これが本件発明の技術的範囲内に属さないということはできない。

したがって、被告製品は、いずれも構成要件Bを充足する。

(3) 構成要件C充足性について

イ号物件では、複合シート12の各辺のうち接着されていない部分1/2が自由担持状態にある。また、ロ号物件では、複合シート12の各辺の接着されていない部分約五八パーセントが自由担持状態にあるので、概ね1/2が自由担持状態にあるというを妨げない。

したがって、被告製品は、構成要件Cを充足する。

(4) 構成要件D充足性について

被告製品は、複合シートによるフラッシュパネル用芯材であるから、構成要件Dを充足する。

(二) 被告

(1) 本件発明にいう「複合シート」は、本件明細書の「特許請求の範囲8」に記載された「波形断面の厚板と該厚板の片側に接着された薄板との二層から成る多数の複合シート」との用語(本件公報2欄二一、二二行)及び「発明の詳細な説明」における第一図及び第二図の説明(本件公報6欄九ないし四二行)から明らかなように、複数の板状のものからなるシートに限定されているものと解すべきである。

これに対し、被告製品は、二枚の板状のシートの中に「波形断面の厚板」を有する構造となっているので、「複合シート」の要件を満たしていない。なお、被告製品の両端には、必ず一辺おきに「全部が自由担持状態」の辺がある。

(2) 本件発明は、本件明細書の「特許請求の範囲2」に記載されたものとは異なり、「屈曲部の山頂部分において、外側又は内側に縦方向の切断線又はV字形ノッチが刻設されて」(本件公報1欄二五ないし二七行)いない複合シートを用いているので、予め山形に屈曲させて並列する構成になっているものに限定されるというべきである。

これに対し、被告製品のシートは、予め山形に屈曲させたものではない(ミシン目の入ったシートを使用しているので、無理なく展張する。)ので、「山形に屈曲させた複合シート」との要件を満たしていない。

(3) ロ号物件は、一一六ミリメートルの一辺に対し、接着部分はわずか四八ミリメートルで、二分の一にははるかに満たないのであるから、「概ね1/2が接着」との要件を満たしていない。

2  本件発明は永井利和の先願発明の技術的範囲に属するか。

(一) 被告

(1) 被告は、本件特許権の先願である次の特許権(以下「別件特許権」といい、その発明を「別件発明」という。)の権利者である永井利和からその実施を許諾されてイ号物件及びロ号物件を製造販売しているものである。

発明の名称 ペーパーコアによる芯材の製造方法

出願日 昭和五二年七月九日

公開日 昭和五四年二月九日

公告日 昭和五六年五月一六日

登録番号 第一〇八二三二八号

特許請求の範囲

「1 クラフト紙等の丈夫な紙を一定寸法の方形状に切断してペーパーコア用シートを多数枚形成せしめる第一工程と、該ペーパーコア用シートに一定間隔の平行なミシン目を刻設せしめる第二工程と、第一枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目の一側に糊代部を形成すると共に該糊代部に接着剤を塗布し、第二枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目を第一枚目のペーパーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第二枚目のペーパーコア用シートの裏面を第一枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着し、以下同様に第三枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる第三工程と、該ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る第四工程より成ることを特徴とするペーパーコアによる芯材の製造方法。

2  特許請求の範囲第一項において、多数枚のペーパーコア用シートを接着させた後、一定の幅によりペーパーコア用シートのミシン目と直角方向に切断せしめる様にしたことを特徴とするペーパーコアによる芯材の製造方法。」

(2) 本件発明は、先願に係る別件発明の技術的範囲に属するものであるから無効である。

(二) 原告

永井利和が別件特許権の権利者であることを認め、その余の事実を否認する。別件発明は実施不能なものであり、被告製品がこれによって製造されるはずはない。また、被告の主張は抗弁とはなり得ないものである。

なお、別件発明は、公開後補正されているので、比較をする場合には、補正前の記載によるべきである。

3  本件発明は新規性を欠くか。

(一) 被告

原告は、本件発明の出願日である昭和五二年一二月二九日より前に、日本国内において、これを公然実施していた。すなわち、原告は、本件発明に係る芯材と同一の芯材(ただし、単葉シートのもの)を「バイアス」なる商品名で同年一〇月ころまでに旭中芯株式会社に製造させ、自らが経営する日本中芯販売株式会社に販売させていた。したがって、本件発明は、その出願時において新規性がないので、無効である。

なお、「単葉シートによる芯材」と「複合シートによる芯材」とは、技術的に同一である。

(二) 原告

被告の主張は時機に後れたものであって許されない。

仮に許されるものとした場合には、被告主張の事実を否認する。原告が「バイアス」(単葉シートのもの)を販売したのは、昭和五三年になってからである。

4  被告は本件特許権につき先使用による通常実施権を有するか。

(一) 被告

永井忠夫は、本件発明と同一の技術の発明をして、本件発明の出願前である昭和五二年七月九日東海資材から出願し(別件発明)、永井忠夫と一体とみなすべき以下の各社を通じて被告製品と同様のフラッシュパネル用芯材を製造販売させている。

<1> 永井忠夫が全額出資してその代表取締役をしている東海資材(昭和四八年一月二二日設立)は、昭和五二年八月ころから右芯材の製造販売を開始した。

<2> 永井忠夫は、右芯材の製造部門を分離独立させるべく、豊川梱包工業株式会社の資本参加を得て、永井忠夫が一〇〇〇万円、豊川梱包工業が一五〇〇万円を出資して、昭和五三年一月二四日、ナゴヤ芯材工業株式会社を設立した。同社の代表取締役には明石忠男が就任したが、経営は永井忠夫が当たった。

<3> 東海資材は、同年六月ころ、右芯材の製造機械をナゴヤ芯材工業に譲渡して右芯材を製造させたが、製品は全部仕入れて自らこれを販売した。

<4> 永井忠夫は、東海資材が昭和五五年三月に倒産したので、その整理に当たるとともに、右芯材の製造販売を準備し、整理を終えた同年一二月一六日、自己ないし東海資材の有する工業所有権やフラッシュパネル用芯材に関するノウハウを実施するため同人が全額出資して被告を設立し、息子の永井利和を代表取締役として就任させ、被告製品を製造販売している。

以上によれば、永井忠夫はもとより、東海資材も右芯材の製造販売の開始により先使用による通常実施権を取得した。したがって、被告は、永井忠夫の先使用による通常実施権に基づいて、ないしは東海資材から被告の事業の実施とともにその通常実施権の移転を受けたことに基づいて、被告製品を販売しているものである。

(二) 原告

被告の主張事実は不知、法律上の主張は争う。本件発明と先願発明とは別の発明である。

5  原告の損害額はいくらか。

(一) 原告

本件特許権の実施に対して通常受けるべき実施料率は五パーセントを下らないので、原告は被告に対し一〇〇〇万円の損害賠償請求権を有する。

(二) 被告

原告の主張を争う。

三  争点についての判断

1  被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。

(一) 構成要件A充足性について

(1) 第二の一2(二)記載の事実によれば、被告物件は、いずれも芯材として三層構造の複合シートを用いていること、概ね等角等辺の山形に屈曲された同一形状の多数の複合シートを並列し、かつ、相互に接着してセル構造を形成したものであること、及びフラッシュパネル用芯材であることが、明らかである。

(2) 被告は、本件発明にいう「複合シート」は複数の板状のものからなるシートに限定されているものと解すべきである旨主張するが、このように解すべき根拠はない。被告は、その根拠として、本件明細書の特許請求の範囲第八項に記載された「波形断面の厚板と該厚板の片側に接着された薄板との二層から成る多数の複合シート」との用語(本件公報2欄二一、二二行)及び「発明の詳細な説明」における第一図及び第二図の説明(本件公報6欄九ないし四二行)を挙げるが、証拠(甲二)によれば、特許請求の範囲第八項の発明は、複合シートによるフラッシュパネル用芯材の製造方法についての発明であると認められるのであるから、これに被告指摘のような記載がされているからといって、物の発明である本件発明の「複合シート」の意味を限定すべき根拠となるものではない。また、右証拠によれば、本件明細書の「発明の詳細な説明」においては、実施例(第二図)の説明において、「複合シートが波形断面の厚板と該厚板の片側に接着された薄板との二層から成る場合のコア」(本件公報6欄二九ないし三一行)を挙げているのであって、この記載に徴しても、本件発明の「複合シート」が断面波形の板材を用いたものを除外する趣旨であると解することはできない。

次に、被告は、被告製品の両端には、必ず一辺おきに「全部が自由担持状態」の辺がある旨主張するところ、原告も主張するように、本件発明のフラッシュパネル用芯材においては、上ないし下を他のシートに挟まれないシートが存在することは技術上当然のことであるから、被告製品が被告主張のようなシートを有するからといって、これが本件発明の技術的範囲に属さないということはできない。

更に、被告は、本件発明の複合シートは予め山形に屈曲させて並列する構成になっているものに限定されるというべきである旨主張するが、このように解すべき根拠はない。被告は、その根拠として、本件明細書の特許請求の範囲第二項の記載を挙げるが、証拠(甲二)によれば、これは、その記載の形式及び内容からみて、本件発明の実施態様を記載したものであると認められので、本件発明に含まれるものというべきであるから、同項の記載を根拠に本件発明の構成要件を限定して解釈することはできない。

(3) 以上のとおりであるから、被告製品はいずれも構成要件Aを充足する。

(二) 構成要件B充足性について

「概ね」とは、「だいたい」「およそ」の意味であるところ、「概ね1/2」の範囲に入るかどうかは、対象となる物件により相対的に変動するものであると解するのが合理的である。本件発明において、「概ね1/2」と限定した根拠は必ずしも明らかではないが、証拠(甲二)によれば、本件明細書の「発明の詳細な説明」においても、「この結果、本発明の芯材におけるセル構造は、単位セルの形状が長辺と短辺の長さの比が概ね二対一である平行四辺形であって、これらの単位セルはそれぞれ六個の単位セルと隣接しており、各単位セルの短辺はすべて他の単位セルの長辺の概ね半分の部分と隣接しているようなセル構造になる。かかる特殊なセル構造を有するコアにおいては、各単位セル間の接着面がパネルの展張方向に対して斜交するという有利な特徴が得られる。」(本件公報4欄二九ないし三七行)とし、従来のハニカム形状のコアのように展張方向と直角に接着面が形成されているものに比して、展張力がセルの接着面で剥離力とせん断力とに二分されるために十分大きな展張力を加えて安定した展張状態が得られるものとしているだけであることが認められる。

そこで、本件発明の技術分野における各セルの接着面の選定について考えるに、隣接するシートのほぼ全面にわたって接着面を形成するような場合には、展張が不能となるし、接着面が僅かの範囲に形成されている場合には、展張時に各シートの接着部が剥離してしまうので、両極端の場合を除外する趣旨であることは、当該技術分野においては了解されていることであると考えられる。それ以外の場合については、作業性や接着剤の効率的な使用等をも考慮して、接着面の範囲が選定されるものであって、許容範囲はかなり広いものと考えるのが相当である。

右の観点から検討すると、第二の一2(二)記載の事実によれば、イ号物件の接着面は、七八ミリメートル(L)のうちの三九ミリメートル(l)で丁度二分の一であるから、構成要件Bを充足することは明らかである。また、ロ号物件の接着面は、一一六ミリメートル(L)のうちの四八ミリメートル(l)で四一・三七パーセントであるから、構成要件Bを充足するものと解するのが相当である。

(三) 構成要件C充足性について

第二の一2(二)記載の事実及び右(二)に説示したところによれば、被告製品は、いずれも構成要件Cを充足するものというべきである。

(四) 構成要件D充足性について

第二の一2(二)記載の事実及び右に説示したところによれば、被告製品が構成要件Dを充足することは明らかである。

以上のとおりであるから、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。

2  本件発明は永井利和の先願特許権の技術的範囲に属するか。

(一) 永井利和が別件特許権を有していることは当事者間に争いがなく、右の事実及び証拠(甲三、乙一の二、乙一〇の一、二)によれば、次の事実が認められる。

(1) 別件発明は、昭和五二年七月九日に発明者を永井忠夫、出願人を東海資材株式会社として出願され、昭和五四年二月九日に出願公開されたところ、特許出願の願書に添付された明細書に記載された補正前の「特許請求の範囲」の記載は、次のとおりである。

「(1) 一定の間隔により平行な折目を多数本設け、多数本の折目のうち一本置きの折目の一側に折目に沿って糊代部を形成してなるペーパーコア用シートを多数枚設け、第一枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着剤を塗布し、第二枚目のペーパーコア用シートの多数本の折目のうち一本置きの折目を第一枚目のペーパーコア用シートの糊代部側の折目に対して糊代部の幅の分だけ一側にかつ平行に位置をずらして第二枚目のペーパーコア用シートの裏面を第一枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着し、以下上記の工程により第三枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着してなるペーパーコアによる芯材の製造方法。

(2) 特許請求の範囲第一項において、多数枚のペーパーコア用シートを接着させた後、一定の幅によりペーパーコア用シートの折目と直角方向に切断してなるペーパーコアによる芯材の製造方法。

(3) 特許請求の範囲第二項において、ペーパーコア用シートの落ち目にミシン穴を多数形成してなるペーパーコアによる芯材の製造方法。」

(2) 東海資材は、昭和五四年九月二日、永井利和に対し、別件発明に関する特許を受ける権利を譲渡し、永井利和は、昭和五五年一一月五日、特許庁長官に対し、特許出願人名義変更届をした。

(3) 別件発明は、補正の上、昭和五六年五月一六日に出願公告されたところ、出願公告された特許請求の範囲は、第二の二2(一)記載のとおりである。

(二) 本件発明と別件発明(補正後のもの)の差異をみると、次のとおりである。

(1)<1> 芯材の素材

本件発明が複合シートであるのに対し、別件発明はクラフト紙等の丈夫な紙である。

<2> 一枚の芯材の形状

本件発明が概ね等角等辺の山形に屈曲させているのに対し、別件発明は一定寸法の方形状に切断されている。

<3> 各シートの接着部

本件発明が各辺は概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着されるのに対し、別件発明は糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして接着される。

(2) 証拠(甲二)によれば、本件明細書の「発明の詳細な説明」には、複合シートを用いることについて、「本発明の芯材は、複数の板材が層をなして接着されかつ一定の厚みを有する複合シートを用いているので、コアとしての十分な強度が確保されるとともに、面材との接着面積が大きいのでフラッシュパネル全体の強度が増大する。従来の芯材は単一のシートを折り曲げて形成したものが一般的であり、例えばハニカムにあっては、六角形状の単位セルの六辺のうちの接着処理を受けない四辺を含浸によって補強することが行われていた。本発明の芯材はかかる含浸処理を必要としないものである。」(本件公報5欄一九ないし二九行)とその作用効果が記載されていることが認められる。右の記載からすれば、本件発明においては、複合シートを使用することにより、従来の単一シートを芯材としたものに比して強度を増大させる点で特有の効果を奏するものと認められる。

これに対し、証拠(甲三、乙一の二)によれば、別件発明においては、複合シートを芯材として用いることについては何ら開示されていないことが認められる。

右の事実によれば、芯材の素材が複合シートであるか否かは重要な要素であり、これを異にするときには、同一の発明ということはできないものと解するのが相当である。

(3) 右に認定判断したところによれば、本件発明と別件発明とは別個の発明というべきであるから、本件発明が別件発明の技術的範囲に属することを前提とする被告の主張は、その本件訴訟における法的位置付けその他の点について判断するまでもなく、採用することができない。

3  本件発明は新規性を欠くか。

(一) 原告は、この点に関する被告の主張は、時機に後れたものである旨主張するところ、被告は、本件についての審理の終結が間近かに予定されていた平成四年八月二四日の第一三回口頭弁論期日の直前の同月二一日に右主張を記載した準備書面を当裁判所に提出し、右口頭弁論期日においてこれを陳述したほか、書証を提出し、かつ、文書送付嘱託及び原告本人尋問の申し出をしたこと、右主張に対する原告の認否反論を徴する必要等のため、口頭弁論期日を更に一回重ねる必要があったが、当裁判所としては、更にそれ以上の口頭弁論期日を重ねる必要はないものと判断して、同年九月一八日の第一四回口頭弁論期日において弁論を終結したこと、以上の事実が記録上明らかである。

右の事実によれば、被告の右主張は、未だ訴訟の完結を遅延させるべきものとは認められないので、原告の前記主張は採用することができない。

(二) そこで、被告の主張について検討するに、本件発明に係る芯材と同一の芯材(ただし、単葉シートのもの)が「バイアス」なる商品名で製造販売されていたことは、当事者間に争いがないところ、右2に説示したところからすれば、本件発明において芯材の素材が複合シートであるか単葉シートであるかは重要な要素であり、本件発明の特許出願前に単葉シートによる芯材が製造販売されていたとしても、その事実をもって本件発明が新規性を欠くものということはできないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告の主張は採用することができない。

4  被告は本件特許権につき先使用による通常実施権を有するか。

被告は、昭和五二年一二月二八日以前から、永井忠夫ないし東海資材が本件発明と同一の技術により被告製品と同様のフラッシュパネル用芯材を製造販売していた旨を主張するが、本件全証拠をみても、右の時期に、右両名が複合シートによるフラッシュパネル用芯材を製造販売していたことを認めるに足りる証拠はなく、単に、別件発明の実施品としての芯材を製造販売していたことが認められるにすぎない。

したがって、右両名が、本件発明の特許出願の際、現に本件発明を業として実施していたということはできず、右両名が本件特許権につき先使用による通常実施権を有するということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、被告の主張は採用することができない。

5  原告の損害額はいくらか。

弁論の全趣旨によれば、本件特許権の実施に対して通常受けるべき実施料率は売上高の三パーセントであると認められる。原告は五パーセントが相当である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告は、平成三年一月一〇日からの遅延損害金を請求しているが、被告による二億円の売上が右の日までにされたことを認めるに足りる証拠はない。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 後藤博 裁判官 入江猛)

第一物件目録(イ号物件)

第一図及び第二図とその説明によって示される芯材(商品名・ニューダイスコア)

(図面の説明)

第一図は、芯材を展張した状態の平面図である。

第二図は、芯材を展張した状態の斜視図である。

芯材10は、互いに接合された同一形状の複数枚の複合シート12から成り、第一図及び第二図に示すように展張されたとき、平行四辺形のセルCが複合シート12間に多数画成される。

複合シート12は、各々断面波形の内板14と、この内板14の両側面に接着された二枚の平坦な外板16とから成る三層構造のシートであって、芯材10が展張されると、屈曲して概ね等角等辺の山部18が複数個形成される。複合シート12の屈曲する部分、すなわち、山部18の頂部20及び隣接する山部18の連結部である谷部22には、第二図に示すように、ミシン目24が複合シート12の長手方向と直交する方向(図中の上下方向)にそれぞれ形成されている。

複合シート12の各辺は、長さ(L)が約七八ミリメートルで、その1/2に当たる約三九ミリメートルの部分(l)が隣接する複合シート12の対応する一辺の同じく1/2の部分に接着され、残りの部分が自由担持状態になるように、互い違いにずらして並列配置されている。

第一図

<省略>

第二図

<省略>

第二物件目録(ロ号物件)

第一図及び第二図とその説明によって示される芯材(商品名・ニューダイスコア)

(図面の説明)

第一図は、芯材を展張した状態の平面図である。

第二図は、芯材を展張した状態の斜視図である。

芯材10は、互いに接合された同一形状の複数枚の複合シート12から成り、第一図及び第二図に示すように展張されたとき、平行四辺形のセルCが複合シート12間に多数画成される。

複合シート12は、各々断面波形の内板14と、この内板14の両側面に接着された二枚の平坦な外板16とから成る三層構造のシートであって、芯材10が展張されると、屈曲して概ね等角等辺の山部18が複数個形成される。複合シート12の屈曲する部分、すなわち、山部18の頂部20及び隣接する山部18の連結部である谷部22には、第二図に示すように、ミシン目24が複合シート12の長手方向と直交する方向(図中の上下方向)にそれぞれ形成されている。

複合シート12の各辺は、長さ(L)が約一一六ミリメートルで、概ねその1/2に当たる約四八ミリメートルの部分(l)が隣接する複合シート12の対応する一辺に接着され、残りの部分が自由担持状態になるように、互い違いにずらして並列配置されている。

第一図

<省略>

第二図

<省略>

<12>特許公報(B2) 昭56-31258

<51>Int.Cl.3B 32 B 3/28 3/12 識別記号 庁内整理番号 6358-4F 6358-4F <24><44>公告 昭和56年(1981)7月20日

発明の数 3

<54>複合シートによるフラツシユパネル用芯材とその製造方法

<21>特願 昭52-159495

<22>出願 昭52(1977)12月29日

公開 昭54-93087

<43>昭54(1979)7月23日

<72>発明者 丹羽孝人

名古屋市千種区希望ケ丘1の8の22

<71>出願人 丹羽孝人

名古屋市千種区希望ケ丘1の8の22

<74>代理人 弁理士 湯浅恭三 外2名

<57>特許請求の範囲

1 概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成しだフラツシユパネル用芯材であつて、前記複合シートの各辺はそれそれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され、かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い いにずらして接着されていることを特徴とする複合シートによるフラツシユパネル用芯材。

2 前記複合シートが、該複合シートの屈曲部の山頂部分において、外側又は内側に縦方向の切断線又はV字形ノツチが刻設されている特許請求の範囲第1項記載の芯材。

3 前記複合シートが1枚の厚手の内板と該内板の両側面に接着された2枚の薄手の外板との3層から成り、前記切断線又はV字形ノツチが外板1層のみを残して刻設されている特許請求の範囲第2項記載の芯材。

4 前記複合シートが波形断面の厚板と該厚板の片側に接着された薄板との2層から成る特許請求の範囲第1項記載の芯材。

5 前記複合シートの各屈曲部の1つおきの山頂部分において、外側に位置する薄板が縦方向に切断されている特許請求の範囲第4項記載の芯材。

6 前記山頂部分において接着テープ又は粘着テープが貼着されている特許請求の範囲第2項記載の芯材。

7 多数の複合シートに対して厚さの一部分のみを残して縦方向に切断する切断線又はV字形ノツチを概ね等間隔Lで互い違いに刻設する段階と、片側の最外層のみに対し当該最外層が切断されている前記切断線の位置又は前記V字形ノツチの裏側位置に隣接して同一方向に概ね1/2Lの長さにわたつて接着剤を塗付する段階と、前記片側にのみ接着剤を塗付された複合シートを多数並列してから1つおきに予の長手方向が逆になるように反転させる段階と、これら複合シートをその接着剤塗付位置が隣接する複合シートの接着剤塗付位置のちようど中央に位置するように積層してから相互に接着させる段階とを包含することを特徴とする複合シートによるフラツシユパネル用芯材の製造方法。

8 波形断面の厚板と該厚板の片側に接着された薄板との2層から成る多数の複合シートに対して、前記薄板のみを縦方向に切断する切断線を概ね等間隔2Lで刻設する段階と、前記薄板に対し各切断線に隣接して同一方向に概ね1/2Lの長さにわたつて接着剤を塗付する段階と、前記片側にのみ接着剤を塗付された複合シートを多数並列してから1つおきにその長手方向が逆になるように反転させる段階と、これら複合シートをその接着剤塗付位置が隣接する複合シートの接着剤塗付位置のちようと中央に位置するように積層してから相互に接着させる段階とを包含することを特徴とする複合シートによるフラツシユパネル用芯材の製造方法。

発明の詳細な説明

本発明は、一般に、フラツシユパネル複合の芯材とその製造方法に関し、特に、複数の板材が層をなして接着されかつ一定の厚みを有する複合シートから構成される芯材およびその製造方法に係るものである。

宇宙航空機材から家庭用品に至るまで広く用いられているフラツシユパネル複合体には各種材質による芯材が接合されている。一般に、このようなフラツシユパネル複合体に用いられる芯材はアルミ、FRP、クラフト紙などのシート材より作られた無数の中空セル(単位区画体)から構成かれる。現在これらの芯材の用途建物、乗物等に使用される構造用パネルなどの構造的用途のみならず、さらに機能的用途、たとえば衝撃吸収エレメント、整流板、光拡敢、熱交換エレメント、インテリア用品などにも応用される。一方、これら芯材はまたその施工に関して、現場での接合作業の直前まで芯材を折り昼んだままの状態で運び、使用時に始めて展張して展張パネルとするキツトタイブと、芯材の製造時点で既に展張して展張パネルとする完成品タイブとに二大別される。

上述の2タイブのうち、輸送、貯蔵等におけるコンパクトさ、及び製品価格における経済性に関しては明らかに前者のキツトタイブの方がすぐれている。

次に、フラツシユパネル複合体の一般的な構成および従来技術における問題点を説明すると、一般にフラツシユパネル複合体とは、壁面を構成する比較的薄手の2枚の面材の間に、ハニカム等を代表とする芯材からなる展張パネルを接着介在させて、いわゆるサンドイツチ構造としたものである。この製造工程における面材と展張パネルの接着工程において、従来のハニカム等を代表とする芯材からなる展張パネルは、少なからぬ復元性すなわち展張前の折り置んだ状態に戻ろうとする性質を有しているために、当該接着工程における作業能率を少なからず低下させていた。特にこの傾向は、施工設備のない現場にあつては大であつた。すなわち、現場においてフラツシユパネル複合体を組立製造する場合、まず上面に接着剤を塗付した面材を台上に水平に置き、次に一般にスライスと呼ばれる展張前の芯材を所定の大きさの展張パネルに展張して上記の面材の上に置いて当該面材と接着結合させ、次にこのようにして組立てられた面材と展張パネルの上から更にもう一枚の下面に接着剤を塗付した面材を せて、当該展張パネルに接着結合させ、上述の如きサンドイツチ構造を構成させるものである。従つて、従未の展張パネルの如き復元性を少なからず有するものにあつては、面材との接着工程毎に展張パネルを所定の展張状態に把持せねばならず、施工設備のない現場にあつてはその分だけ作業員の負担が増えていた。

本発明はこのような問題点に着目し、主に現場における施工能率を向上させるべく、現場における展張が容易であり、かつ一旦展張された筏はこの展張パネルがその展張状態を良好に保持し得るような、新規な構成を有する芯材を提供せんとするものである。

更にまた本発明は、紙シート材から構成される従来の芯材が、その耐水性及び圧縮強度の増加を計るために、紙シート材にフエノール樹脂或はフツ素樹脂等の合成樹脂を含浸させて芯材の補強を計つていた。いわゆる従来の含浸工程を省洛して、生産性の向上を計り得る芯材およびその訴規な製造万法を提供せんとするものである。

本発明に係る芯材は、概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成した芯材であつて、前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シート接着され、かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されていることをその特徴としている。

この結果、本発明の芯材におけるセル構造は、単位セルの形状が長辺と短辺の長さの比が概ね2対1である平行四辺形であつて、これらの単位セルはそれぞれ6個の単位セルと隣接しており、各単位セルの短辺はすべて他の単位セルの長辺の概ね半分の部分と隣接しているようなセル構造になる。かかる特殊なセル構造を有するコアにおいては、各単位セル間の接着面がパネルの展張方向に対して斜交するという有利な特徴が られる。すなわち、従来のハニカム形状のコア等では、セルの接着面が展張方向と直角であるため展張力が接着面をはく させるようにのみ働くこともあつて、充分大きな展張力を加えて安定した展張状態の展張パネルを得ることが困難であつた。一方、本発明の芯材にあつては、セルの接着面が展張方向と斜交していることにより展張力はセルの接着面ではく能力と接着面に平行に働くせん断力とに2分されるため、充分に大きな展張力を加えて安定した展張状態の展張パネルを得ることが極めて容易になつた。この事は例えばアスベスト紙の様に層間はく の りやすい材質のものや、従来のアル  等よりもさらに厚めの材質のものを用いる芯材にとつて特に有利である。さらにハニカム式の芯材と比較した場合、ハニカム式の芯材においては、そのせん断強度は展張方向に対して直角方向に大であり、直角方向/展張方向>1~2となり、展張を極限にするとき上記 値は 小となるが直角方向>展張方向の関係に保たれる。本発明の芯材にあつては、せん断強度は展張が少ない間は直角方向>展張方向であるが、展張が極限に達すると、直角方向<展張方向となる。即ち、展張の度合により直角方向 展張方向のものが求められ、このことは宇宙航機等の高強度を要求される分野において等に有利な特質となる。

また  発明の芯材は   の板材が層をな   着されかつ一定の厚みを有する複合シートを用いているので、コアとしての十分な強度が確保されるとともに、面材との接着面積が大きいのでフラツシユパネル全体の強度が増大する。従来の芯材は単一のシートを折り曲げて形成したものが一般的であり、例えばハニカムにあつては、六角形状の単位セルの6辺のうちの接着処理を受けない 辺を含浸によつて補強することが行なわれていた。本発明の芯材は、かかる含浸処理を必要としないものである。

さらに本発明の芯材は、複合シートの各屈曲部の各山頂部分において、外側又は内側を縦方向に切断することが望ましい。すなわち、この切断により、複合シートの折り曲げが容易になると同時に前述したような復元性が減少し、展張パネルがその展張状態を良好に保持し得る結果、建築工事等における作業能率が向上する。

本発明の芯材の他の特徴および利点は、以下に述べる本発明の実施例によつてさらに明らかとなろう。第1図は、本発明の芯材のセル構造を表わしており、符号1から7までの7列の複合ツートが代表的に示されている。各複合シートは、1枚の厚手の内板例えばラワン合枚と、この内板の両側面に接着された2枚の薄手の外板例えばクラフト紙との3層から成つている。ここでセル構造について説明すると、第1図からわかるように、各単位セルは、長辺と短辺の長さの比が概ね2対1の平行四辺形をしており、中央の単位セルSがA、B、C、D、E、Fの6個の単位セルと、隣接しているように、各単位セルはそれぞれ6個の単位セルと隣接しており、各単位セルの短辺はすべて他の単位セルの長辺の概ね半分の部分と隣接している。

第1図に示すコアの展張方向に矢印で示すように図面の上下方向である。従つて、各セル間の接着面がパネルの展張方向に対して斜交しており、これにより前述のように、復元性が減少しその展張状態を良好に保持し得るとともに、その展張の度合によつて上下方向と左右方向のせん断強度の比 を変化させることができるという特有の効果が得られる。

複合シート6と7は、接着剤10の塗付位置を示すために少し して描いてあり、図から理解されるように、複合シート7は複合ンート6をその長手方向が逆になるように反転させたものに等しい。このことは、後述するように、製造方法がきわめて簡単になるという利点をもたらす。

第1図における山頂部11、12は、屈曲部の山頂部分において外側の2層が縦方向に切断されていることを示し、山頂部15は内側の2層がV字形に切断されて合せ目となつていることを示す。かかる切断により、複合シートの利点を生かしながら展張を容易にすることができる。

第2図に示すのは、複合シートが波形断面の厚板と該厚板の片側に接着された薄板との2層から成る場合のコアである。この場合も、展張を容易にするために、薄板が山頂部分21、22等の個所において、縦方向に切断されている。しかしながら、山頂部分25、26等においては、薄板が内側にくるので薄板を切断すろ必要はない。ただし、必要に応して厚板を切断してもよい。山頂部分において薄板のみを切断することが困難な場合は、符号23で示すような折目線で代用してもよい。かかる特殊な切断線あるいは折目線を用いれば、波形の厚板を備えた2層の複合シートの場合でも、3層のシートの場合と同様の作用効果が得られる。

第3図に示す別の実施例は、3層の複合シートの外板の前記切断線およびその反対側に接着テープ又は粘着テープ31、32を貼つて、強度の増大を図つたものである。切断部に貼るテープ31を両面接着テープ又は両面粘着テープにすれば、複合シート間の結合部分をさらに補強することができる。のみならず、接着剤の塗付を省洛して、両面接着テープだけで各複合シートを結合することも可能である。もつとも、第3図におけるテープ31は、複合シートの接着面からはみ出した部部35、36を有しており、この部分は、隣接するシートとの付着を防止するために片面接着テープであることが望ましい。テープ32は補強のためであり、片面接着テープでよい。

第4図は示すさらに別の実施例は、前述の2層の複合シートの薄板を接着テープ又は粘着テープ41、42で補強した例である。

つぎに、本発明の芯材の製造方法について説明する。3層の複合シートの場合は、第5図に示すように、まず最初に、概ね外板1枚のみを残して縦方向に切断する切断線11を、概ね等間隔Lで互い違いに刻設する。外板がアルミ板のように厚みを有する場合には、必要に応じて、外板にも切目を設けることが望ましい。つぎに一方の外板のみに対し、その外板が切断されている各切断線11に隣接して同一方向に概ね1/2Lの長さにわたつて接着剤10を塗材する。従つて、各接着剤10にビツチ2Lの間隔で塗付されることになる。つぎに、これら片側のみ接着剤を塗付された複合シートを多数並列しておいてから、1つおきにこれらシートをその長手方向が逆になるように反転させる。この理由は、第1図における複合シート6と7の関係から容易に理解されよう。つぎに、これら多数のシートを、第6図に符号61ないし64で示すような位置関係にずらして並べてから相互に接着させる。すなわち、各シートの接着剤塗付位置が隣接するシートの接着剤塗付位置のちようど中央に位置するように、積層して相互に接着させる。従つて、1つおきのシートは全く同一配置となる。そのあとで、各切断線位置において、各切断線が外側になるように互い違いに折り曲げていけば、第1図に示すようなセル構造が得られる。

第7図に示すのは、波形の厚板と1枚の薄板とから成る2層の複合シートから、第2図のコアを製造する方法を説明するものである。図から明らかなように、薄板に対し等間隔2Lで縦方向の切断線21を刻設する。前述のように、切断線21の代りに折目線23でもよい。つぎに薄板に対して、切断線21に隣接して同一方向に概ね

1/2Lの長さにわたつて接着剤10を塗付する。つぎに、これら片側にのみ接着剤を塗付されたシートを多数並列しておいてから、1つおきにこれらシートをその長手方向が逆になるように反転させる。つぎにこれら多数のシートを、第8図に符号81ないし84で示す関係にずらして並べてから相互に接着させる。この関係配置は、第6図の場合と全く同様である。各シートを貼りあわせた後に、各切断線位置およびそれらの各中央位置において、各切断線が必ず外側になるように互い違いに折り曲げていけば、第2図に示すようなセル構造が得られる。

第9図に示すのは、第1図における山頂部15のような先端が開口しない屈曲部を製造する方法であつて、第5図における切断線11の代りに、ちようど各反対側の位置にVノツチ91を刻設する。Vノツチは外板1枚を残すように刻設することが望ましいが、前述のように、必要に応じて外板に切目を設けてもよい。つぎに、一方の外板のみに対し、V字形ノツチの裏側位置に隣接して同一方向に概ね1/2Lの長さにわたつて、接着剤10を塗付する。従つて、各接着剤10は、ビツチ2Lの間隔となる。つぎに、第6図と同様に1つおきに反転して積層し接着させた後に、各山頂部分においてVノツチが内側にくるように折り曲げれば、第1図における15のような形状をした山頂部のセル構造が得られる。

第5図ないし第9図を参照して説明してきた本発明の製造方法によれば、同一形状の複合シートを多数作つておいてから、それらを1つおきに反転して接着させるだけでよいから、極めて容易にしかも短時間のうちに、各種の形状を有する芯材を製造することができる。

本発明は、複合シートが2層又は3層の場合の実施例について説明してきたが、4層以上の複合シートについても全く同様に適用できるものであることは言うまでもない。本発明によつて得られる芯材は、十分な強度を有すると共に、現場における展張が容易でありかつ一旦展張された機はその展張状態を良好に保持することができ、さらに展張の度合によつて縦横方向のせん断強度の比率を変化させることができる等の優れた特質を有するものであり、産業の発達に寄与するところが極めて大きい。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の芯材のセル構造を表わす断面図、第2図、第3図、第4図はそれぞれ別の実施例を表わす断面図、第5図、第6図は第1図の芯材の製造方法を表わす断面図、第7図、第8図は第2図の芯材の製造方法を表わす断面図、第9図は別の実施例による製造方法を表わす断面図である。

1ないし7……複合シート、10……接着剤、11、12、21、22……切断線、31、32、41、42……接着テープ、91……V字形ノツチ。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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第7図

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第8図

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第9図

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特許公報

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